先日新しい包丁を買った。21cmの牛刀である。鋼材は鋼。白紙二号鋼だったと思う。これを買うのに結構悩み、調べ物をしたので知見を残しておく。
家庭用としては三徳、牛刀、ペティナイフ、菜切りが候補になる。無難に選ぶならば三徳包丁でよいのだが、どうせ買うなら持ってないタイプにしたいと思った。すると牛刀と菜切りが残った。この二つを比べて悩んだ。
菜切り包丁はこんな形
牛刀はこんな形
牛刀は見た目がかっこいい。また、万能包丁なので冷凍肉や骨以外はだいたい扱える。一方で菜切りも有力だ。家庭料理では野菜ばかり切るので、野菜特化の包丁があってもよさそうに思えた。何しろ菜切り包丁は三徳包丁が普及するまでは、どの家庭にもあったものなのだ。それでかなり悩んだが、牛刀に決めた。菜切りと他の包丁との使い分けが面倒そうに思えたからだ。やっぱり万能包丁一本で仕事をしたい。長さは21cmにした。三徳に慣れていると長く感じる刃渡りだ。プロは30cmのものを使うそうだが、家庭では21cmか24cmが限界だと思う。
材質は鋼とステンレスのどちらかだ。鋼には日本鋼、白紙n号、青紙n号がある*1。青紙が最も硬くて高級だが、刃付けが少し難しいそうだ。おそらく家庭用では白紙でじゅうぶんだろう。鋼の包丁は切れ味に優れるが、錆びやすいというデメリットがある。ステンレスはモリブデン鋼、V金10号、銀三鋼、粉末ハイスなど。昔はステンレス包丁は切れないと言われていたが、技術革新の賜物でよく切れるようになったらしい。ステンレスの包丁はもちろん錆びにくい。研ぎにくい問題はあるが、一般的にはこちらが勧められる。だが鋼にした。近所に有次という超老舗包丁屋があったからだ。包丁はわざわざ実店舗に行かなくても、オンラインで堺や新潟、関の商品が手に入る。しかし、実際に触ってから買いたかった。包丁は手で扱うもので、プログラマにとってはキーボードに等しいからだ。堺の包丁のお店も梅田にあるのだが、コロナ禍の状況下で梅田に行くのは憚られた*2。こうして近所の包丁屋で買うことに決め、自動的にそこでの主力商品、鋼の包丁という選択に至った*3。
鋼の牛刀を一ヶ月ほど使ってみたところ、切りごこちはすこぶる快適である。そして、懸念されていた錆びやすさは問題にならなかった。こまめにキッチンペーパーで拭けば全然錆びないのだ。野菜を切っているそばから錆つくのを想像をしていたのだが、そんなわけはなかった。三十分濡らしたまま放置するとダメだろうが、使ったら拭く、放置するときも拭くを身につけると錆びないのだ*4。
包丁を変えてからしばらくして切る感触が手に伝わるのに気づいた。気のせいかと思ったのだが、確かに繊維を断ち切る感覚があるのだ。今まで持っていた包丁にはなかった。鋼材が原因なのか、包丁の形が原因なのかはよくわかっていない。手触りが伝わるメリットが何かと言われるとよくわからないが、切るのが楽しくなっている。包丁ごしに野菜や肉の硬さがわかるので、硬さに応じた切り方ができるのは利点かもしれない。
メンテナンスには1000番と5000番の砥石を使っている。二週間に一度くらい5000番で軽く研いで、一月に一度両方を使って刃をつけている。白紙鋼は本当に刃がつけやすくて研ぎの時間はほとんどかからない。簡単な手入れで最高の切れ味が持続するので鋼にしてよかったと思う。
以上が私が牛刀を買って得た知見である。よい道具を持つと、道具に影響されて人間の行動が変わることがある。切る動作一つをとっても立ち方、左手の添え方、手の力など気をつけることは多い。私も影響されて自分の癖を見直すようになった。よい投資だったと思う。