しゅみは人間の分析です

いらんことばかり考えます

週報 2024/03/17 物語に潜るための風呂

3/9(土)

『スパイス完全ガイド』と『ミニマル料理』を読んだ

どちらも稲田俊輔の本。

イナダ氏のレシピは手順が明確でわかりやすいのが特徴。読んだら何をすべきかよく理解できる。料理中は忙しいので簡潔に書かれているのがありがたい。

❤️❤️❤️

www.seitosha.co.jp

『スパイス完全ガイド』は教科書みたいな本。レシピよりもスパイス解説、コラムの文章のほうが多いかもしれない。本当に「完全」なガイドなので、スパイス本で迷ったらこれを買えば間違いない。

 

麻婆豆腐レシピのページに変なことが書かれていた。

イナダのつぶやき: いかなる定義をひねくり出しても麻婆豆腐をカレーから分離することは不可能だというのが僕の見解です。
P.40

「麻婆豆腐はカレーであるか?カレーではないか?」というTwitterネタの文脈を参照している。
私も麻婆豆腐はカレーだと思う。

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www.shibatashoten.co.jp

僕は古い料理本を読むのが好きです。その中でも特に好きなのが50年くらい前の家庭料理本の数々なのですが、そこに掲載されている料理を実際につくったり、レシピから味を想像したりしていると、それは現代の家庭料理とは大きく異なっていることに気付かされます。あえてざっくり言うと、それらはおしなべてなかなかの手間がかかる割に、案外素っ気ない味に仕上がります。
素っ気ない、と言うと悪口に聞こえるかもしれませんが、その素っ気なさは実は極めて好ましいものでもあります。「素材そのものを生かした料理」なんて大上段に構えるつもりはありませんが、ただ、そこには凛とした飽きない味があります。そして少々皮肉なことに、今の私たちが日常的に利用する飲食店よりもっと敷居の高い、いわゆる高級店のシンプルで研ぎ澄まされた料理にも通じるものがそこにはあるのです。昔の人はたちは、こんないいものを家で食べていたのか、という驚きがあります。
P.4 絶対に読んでほしい前書き

手間がかかる昔のレシピを合理的・効率的になるよう再構成したのがミニマル料理である。高級店のシンプルさを自宅で再現できるので、食べ疲れしない。自炊入門に最適な本でもある。

3/10(日)

カレーの玉ねぎは一人100g

やや失敗カレーとてきとう野菜煮

いつものようにDiDiのインドカレーを作ったらやや失敗。しゃばしゃばの水多めになってどろりとした感じが出なかった。味はおいしいのだが、スパイスが辛く感じる。スパイスの量はレシピ通りなのになぜ?

レシピに立ち返り確認したところ、玉ねぎの量が少ないのに気づいた。2人ぶんで200g必要なところ100g入れたかどうか。なるほど玉ねぎが少なくてカレーのボディ部分が手薄になっていたのだろう。だからスパイスが多く感じられた。

「どのレシピも玉ねぎは200g必要なのだろうか?」と思ってイナダ氏のレシピをくまなく調べると「玉ねぎとトマトの総量が200gになるように設計されている」ということがわかった。トマトを入れなければ玉ねぎが200gだし、トマトがあるなら玉ねぎは120gである。インターネット上に見られる他のレシピも似たような量だった。

カレーにおいて、トマトと玉ねぎは旨味担当である。土台になる。ここがしっかりしてないと、カレーはカレーらしくならない。必ず1人100g(以上)入れること。*1

🛌🛌🛌

漫画家短命すぎる問題

鳥山明の件で文化功労者になった漫画家を調べてみた。

著名なのは

あたり。手塚治虫は入っていない。

おそらく、死ぬのが早すぎたから。手塚治虫は60で死んじゃっている。文化功労者とは、年金付きの栄誉称号なので生きていてそれなりに高齢でないともらえない。

水木しげるは「睡眠力」の漫画で有名なようにちゃんと寝ていたし、ちばてつやは病気により50代で連載をやめたそうだ。うしろ二人の少女漫画家は月刊誌に連載していた。やっぱり漫画、特に週刊連載は命を削って仕事をしているのだろう……。

3/11(月)

トイレの鏡で頭を見たらアホ毛があった。茶柱みたいでめでたい。

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物語に潜るための風呂

お昼休みに『ペンギン・ハイウェイ』を読んでいて、いいシーンにさしかかったところ、昼休憩の残り時間が気になって本を閉じてしまった。

物語は、小説でも漫画でもそうだが、楽しむためには「潜る」必要がある。潜っているときは邪魔が入ってはならない。邪魔をしてくるのはあらゆる人、音、それからスマホ。一人でいてもあの四角い画面がチラチラ視界に入るだけで読書の邪魔になるのだ。

だから風呂がいちばん。浴室に本だけを持ちこみ、風呂蓋に置いて読む。邪魔をしてくるのは額を流れる汗だけ。汗が垂れてきたら視界を塞ぐし、顎から滴って本を濡らすこともある。これほど残念なことはない。

風呂は最高の読書環境ではあるが、長居しすぎると脱水で死ぬかもしれない。長くとも30分くらいにしておくのがおすすめだ。

そう言いつつ、私はこの日60分読んでいたのだが。

のぼせに注意してね!

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『ダブリナーズ』を読んだ

www.shinchosha.co.jp

20世紀初頭のダブリン市民の様子を描いた短編集。なんでダブリンかというと作者ジョイスの出身地だから。

ジョイスは当時の著名な小説家であった。ずっとスイスやらフランスにいたと思うのだが、アイルランドの小説を書き続けたらしい。『ユリシーズ』がいちばん有名だが、これもダブリンが舞台。あと『フィネガンズ・ウェイク』というラップでできたような小説を書いて顰蹙を買ったらしい。言葉の意味よりも音を重視して音楽的に作った小説なので翻訳不可能だと言われていたが、日本語には翻訳されている。どんだけ日本の文化は厚いのだ。

短編のなかでは『下宿屋』『痛ましい事故』『死せるものたち』がよかった。前二つはかなり短いのにお話としておもしろく記憶に残った。10ページ足らずで「そんな人間もいたんだろうなあ(実在しない)」という感想を得た。

3/12(火)

ハーブは冷凍しておくとよい

『スパイス完全ガイド』でイナダ氏が「ハーブはどしどし冷凍すべし」と言っていたので、そのようにした。今後も種類を増やしていきたい。

はさみでざくざく切ってバットに並べて冷凍処理→ジップロック

冷凍に向かないのはバジル。バジルは生でもすぐ香りが落ちるのだ。イタリア人もプランターからもいで使うので、新鮮なバジルをペーストしたければプランターで飼うほかないのだろう。といっても、ジェノベーゼ以外であんまり使わないのだけども。

🍊🍊🍊

同僚が夜中の足の冷えで悩んでいたので運動を勧めた。私も冷え性で運動はできてないのだが、鍼師に「軽く息があがる程度の運動」を勧められている。いや、できればやりたいのだよ。

そこへ他の同僚たちも集まってきてやんややんやと冷え対策の議論をし始める。やれ湯たんぽだの電気毛布だの。湯船には浸かっているらしいので、すでに対策をしているようにみえた。

運動の話をしていたら筋トレ趣味の人も出てきた。「高負荷トレーニングをしたあとサウナに入ればいいんですよ」とのたまうので「出たなキン肉マン」と返して追い払った。

3/13(水)

スナネズミたちが回し車をケージにぶつける音であまり眠れなかった。

主犯

回し車の向きを変えることで解決した。

🐐🐐🐐

おいしい料理のポイントはいくつかあるけれども、切り方のウェイトは大きいのかもしれない。麺には細長く、スープには細かく。煮物であれば箸でつまみやすいように。この点をよく気をつけないと、簡単に味が落ちるのかも。

そう考えて今日は味噌汁の具をダイス状になるよう意識して切ってみた。フランス野菜スープイーブイはそういう切り方だったはず。

3/14(木)

塩豚がうまい。豚肉をフォークでぶすぶすに刺して塩とスパイスをまぶし、シートで脱水したものである。

赤身:脂肪 = 9:1くらいがうまい

これが冷蔵庫で二週間以上もつのだ。そしてうまい。現代てくのろじ〜をもってしても生肉の保存は難しい。ふつうの肉だと二週間経つともう食べられない。運が悪いとお腹を壊す。それが水を抜いて薄塩をしておくだけでおいしさが維持できるのだ。

この方法が良いのは干し肉とまではいかないこと。カチカチにはならず、ほどよく水分が抜けたくらいで食べやすい。塩辛くもない。ちょっとだけ水を抜いたうえで冷蔵庫の恩恵を受けるから、食べやすさと保存性のバランスが取れるのだと思う。

塩豚を切り落として卵と一緒に焼く、右画像の赤いやつはザワークラウト

毎朝、塩豚と卵をテフロンプレートに乗せて、グリルで焼くと完璧な朝食になる。朝のタンパク質には悩み続けてきたが、暫定のベストがこれである。

🐙🐙🐙

行き先不明の物語を好む

さいきんの読書は非エンタメの物語(主に文学)へ舵を切っている。その理由が結晶化されてきたので語ってみよう。

 

大事なのは、目的地がわからないこと。

行き先が明瞭なのがエンタメ作品である*2。例えば「魔王/仇/悪いやつを倒す」とか「どこそこへ向けて旅をする」パターン。ゴールに向けて寄り道をしつつも進んでいき、伏線はゴールを導くために配置される。その上で読者を驚かせる展開があると盛りあがる。

いつからかわからないのだが、私はゴールが見えていることに満足できなくなった。ゴールを決めた時点でその物語のとりうる選択肢は相当に狭まるのであり、ある程度エンタメ作品を読んできたら「次の展開はこの選択肢のどれかだね」と想定できてしまう。物語のジャンルが定まっているのも良くなくて、忠実にジャンルの文脈を守っている作品であるほど展開の幅が狭くなってしまう。まったく予想できないものが読みたい。

長年、哲学とか思想系の本を読んできたのだがこちらにも飽きつつある。サービスが良くて議論のレベルが高い本は暇をつぶすには楽しい読書になるのだけど、行き先や展開はエンタメ以上にはっきりしていることが多い。学者が「わけがわからないよ〜」となりながら書いたものには行き先不明なものもあるが、あまり出会えるタイプの本ではない。というわけで、「行き先不明で何も起きなくてもよい」とする(主に文学)方面を掘ったほうが私の需要は満たせるのではないか、と思ったのである。

 

「人が書いてる(語ってる)うちに思ってもみないものを吐きだす」という現象は私の好きなテーマである。何度も週報で触れられている。これはもう私の「性癖」みたいなものなので、性癖の赴くがままに従うしかないのであろう。

3/15(金)

家のまわりを走る

運動をどうするかについてずっと悩んでいたのだが、ついに走ることになった。昨日の鍼で「ストレスがひどくて冷えが入っている。頭を空っぽにする必要があって、(やっぱり)運動がおすすめです」と言われたのがきっかけ*3。運動が必要なのはわかっていて一万歩くらい歩くようにはしてたのだが、時間がかかるのが嫌だった。時間のことばかり考えるのは貧しいが、走ると効率的に運動ができて、かつ冷え性の対策になるのは明らかだ。続くかどうかはわからないがとりあえずひと月くらい実験して変化を観察したい。

🗼🗼🗼

文化からは逃れられない

ここ数ヶ月フランス料理とかインド料理にお熱なのだが、なかなかうまくいかない。おいしく作るためにはけっこうな手間がかかるわりに、何か物足りなさを感じることがある。

なんの変哲もないにゅうめん

この日、自炊が面倒になりながらにゅうめんを作ってみた。野菜と鶏肉、きのこと昆布、煮干し、鰹節を煮立てて素麺をゆがいただけのもの。これがたいへんおいしかった。手間に対しておいしすぎる。諸外国料理だとこんな簡単にはおいしくならない。

なぜ簡単なのにおいしいのか?
「育った文化の味だから」ではないか。

 

日本ではどの料理もジャパナイズされて受容される。魔改造というやつだ。でもそれが日本人の口に合うのだから仕方がない。そして料理人も諸外国料理の研鑽を積んだ末に、和食および日本の調味料に回帰することが多い。土井善晴三國清三もそうだった。

料理は文化なのだ。生まれ育った文化の外に出るのは非常に難しい。たしかに練習をしたら外国料理をそれらしく、おいしく作れるのだが、そんなことをしなくても自分の文化の料理ならより簡単においしいものが作れるのである。結局、プロの料理人も諸外国料理を日本風に改造して提供することが多いし、あまり現地の方法にこだわりすぎず、自分に合うように作るのがいいのかもしれない。

*1:https://www.sbfoods.co.jp/recipe/detail/08408.html エスビーのレシピは2人ぶんなのに玉ねぎトマトを350g入れている。水に至ってはイナダ氏のレシピの4倍。加熱時間はほとんど変わらないので、この分量だと4人ぶんできるだろう。いくらなんでも多すぎるので、誤植かレシピが雑かのどちらかだと思われる。

*2:わかりやすさのために文学性とエンタメの二項対立の議論にしているが、実際には両者が混ざり合った小説、漫画、映画があり、比率は作品によってさまざま。

*3:村上春樹が「書くためには体力が必要だ」といって走っているのにも影響されている。総合的に材料が揃ってきて最後のひと押しがされてしまった感じ。