しゅみは人間の分析です

いらんことばかり考えます

2023年に読んだ本

今年は週に一冊本を紹介することを目標に読書をしていた。だいたい金曜日までに一冊読み終わっていればよくて、早めに読み終わった本が溜まることもあれば、ギリギリまで読み終わらないこともあった。一種の締切があったので安定して本を読み続けられた。リズムは大事。

一年は52週。読んだ本も52冊だった。これ以外は読んでないと思う。漫画も最近は読まない。当たりはこのなかで5冊くらいで、もうちょっと基準を緩くしたら20冊くらいだと思う。下のリストで⭐️をつけてある。

三割くらいはダメな本だった。途中で投げればいいものを、サンクコストにやられていつも最後までめくってしまう。最初の数ページで捨てる判断もできていない。いつまでたっても読書は上手にならない。

 

ドゥルーズ - 檜垣立哉
ドゥルーズ入門書。ベルクソンを引き継ぐ「生」の哲学者である、という整理がコア。ちょっとむずい本。

 

忘れられた日本人を読む - 網野善彦
読書ログがないが読んだような気がする。宮本常一と網野の思い出話とか、網野歴史学からの解釈。

 

⭐️⭐️民俗学の旅 - 宮本常一
宮本常一の自伝。おもしろかった。「維新以前の人のことばには抑揚、リズムがあった」という記述がよい。『忘れられた日本人』を先に読むべし。

 

⭐️戦後日記 - 三島由紀夫
三島事件へ向けてだんだん不穏になっていく三島の日記。文章が上手い。その時代らしい言葉遣いが残っていてよい。余暇は劇場、映画、キャバレー、ナイトクラブ、酒。

 

⭐️⭐️⭐️徒然草 - 兼好
説明不要。おもしろい段がたくさんあった。陰キャ文学なので合う人にはとても合う。

 

⭐️⭐️人間の生き方、ものの考え方 - 福田恆存
the 人文学という感じの教養書。説教かも。「言葉の意味をちゃんと理解して使ってますか?」「人間は本質的に孤独」がメッセージ。

 

ベルクソンの哲学 - 檜垣立哉
檜垣立哉に言わせると「生」の哲学の人。むずくて要約できない。

 

医学の歴史 - 梶田昭
胆汁質とかの呪術っぽい医学から近代医学までを語る本。「できることは悩みに対応する慰めなのに、たまにしかできない癒しを看板に掲げたところに、医学の宿命的な辛さがある」p42

 

自律神経の科学 - 鈴木郁子
内臓を支配する神経と内臓から情報を吸いあげる神経がある。皮膚刺激で自律神経が影響を受け、胃腸の動きを活発化させたりする。鍼灸の原理の一つ。ちょっと冗長な本。

 

カラスと京都 - 松原始
90年代の京大学生生活を描くエッセイ。カラス研究者になるまでの半生。

 

日本語の起源 - 大野晋
日本語はタミル語から派生したという仮説の本。語彙だけでなく文化の類似性も指摘しており、説得力はある。

 

⭐️⭐️⭐️福翁自伝 - 福澤諭吉
とてもおもしろい(読みやすい)。適塾時代のハチャメチャが楽しそう。

 

君が戦争を欲しないならば - 高畑勲
空襲体験の壮絶な描写、などなどの講演集。おそらく火垂るの墓の原体験。

 

⭐️東と西の語る日本の歴史 - 網野善彦
日本は東西で文化的に別物だよ、という主張の本。

 

⭐️⭐️日本人の身体観の歴史 - 養老孟司
死体を人扱いしない日本文化・社会への恨み節なのだが、よく考えられていておもしろい。「実在感」がキーワード。日本には身体をないかのように扱う文化がある(身体の実在感がない)。

 

語学の天才まで1億光年 - 高野秀行
冒険のためなら現地で言語を覚えればいいのだ本。どの言語にもノリのようなものがあるらしい。自虐的なのにドヤ顔をする書き方が苦手だった。

 

⭐️⭐️言語はこうして生まれる - モーテン・H・クリスチャンセン, ニック・チェイター
言語は即興的なものであり、ジェスチャーゲームのようなものである。きっちりした意味がある盤石な体系ではない、と主張する本。すべては言語ゲームである。

 

言語の本質 - 今井むつみ, 秋田喜美
オノマトペによって言語は身体とつながっているんだぞ本。アブダクションも大事。アブダクションは論理的には正しくないが、新しい知識を作りうる。おもしろいがちょっと読みにくい。

 

⭐️パスタでたどるイタリア史 - 池上俊一
古代ローマから現代までパスタでイタリアの歴史を語る本。おもしろい読みやすい。中世ではごちそうだったのに、今や母親の味となっている。

 

短歌をよむ - 俵万智
短歌とは「あっ」と思った心の動きを詠む文学である。私は短歌とは相性が悪いことがわかった。

 

⭐️⭐️人はみな妄想する - 松本卓也
ラカンの哲学の変遷をたどる本。むずいがおもしろかった。

 

躁鬱大学 - 坂口恭平
躁鬱人の生態を描くエッセイ。「どんな人間も悩みは同じである。人は、人からどう見られているかだけを悩んでいる」p.154

 

⭐️⭐️⭐️唯脳論 - 養老孟司
社会にあるもの全部脳の産物だよ本。養老孟司は雑な議論をしがちだが、アイデアは天才だと思う。「意識とは脳の二階である」「哲学には運動系と感覚系の対立構造がある」という指摘がよかった。

 

大阪的 - 井上章一
大阪にまつわる誤解を解消していく本だが、文章が下手でつまんなかった。後半読んでない。

 

「問い」から始まる哲学入門 - 景山洋平
問いが大事なのは間違いないので、よいタイトルだと思ったらおもしろくなかった。冗長。

 

さわれば分かる腹診入門 - 平地治美
腹診とは中医学、漢方での診断方法。お腹を触ってお灸する場所を決める。体質ごとの診断方法が書かれていた。

 

⭐️⭐️⭐️考える練習 - 保坂和志
保坂和志が若手編集部員を説教する口述筆記の本。めちゃくちゃおもしろい。創作論のような内容。

 

からだ・こころ・生命 - 木村敏
養老孟司が「死は二人称でしかない。なぜなら自分の死は体験できないし、意味のある死は二人称的な関係だけだから」と引いていたので読んだ本。論文集だが、他はまじめに読んでない。むずい。

 

継続するコツ - 坂口恭平
「ふつうの人は否定してばかりで、そうやっていると食えなくなるぞと言ってくる。無視してよい」「おもしろくないことを続けてはいけない」あたりがメッセージ。あくまで坂口恭平のコツが書かれている。

 

これならできるオリーブ栽培 - 山田典章
小豆島脱サラ有機オリーブ農家の本。オリーブの苗を買ったので読んだ。

 

「野口体操」ふたたび - 羽鳥操
脱力をするための体操の方法、および野口三千三の思い出話。動画でみたほうがよさそう。

 

自閉症とマインド・ブラインドネス - サイモン・バロン=コーエン
自閉症者が他人の心や意図を読めないのはなぜか、という問いを解くために心のモデルが提案される。心理学界隈向けの専門書。読みにくい。

 

⭐️⭐️⭐️芸術のパトロンたち - 高階秀爾
パトロンの権威を示すための芸術が社会に広まるにつれて、芸術家の地位も向上していった。現代では大衆および公的機関がパトロンである。めちゃくちゃ文章が上手。

 

⭐️⭐️ビジュアル・シンカーの脳 - テンプル・グランディン
視覚、映像で考える人たちもいるんだよ本。視覚思考者には物体視覚思考者と空間視覚思考者がいる。あと言語思考者もいる。社会が言語偏重でよくない、という政治的主張もある本。コアの主張はおもしろい。

 

おしゃべりな脳の研究 - チャールズ・ファニーハフ
頭の中で声が聞こえる人たちについて研究した本。読みにくい。

 

植物の体の中では何が起こっているのか - 嶋田幸久, 萱原正嗣
光合成の仕組みについて理解できる本。植物の生長や紅葉などについても語られる。

 

⭐️日記 - 五木寛之
直木賞作家の日記。だんだん文章が上手になっていっておもしろい。

 

⭐️陰翳礼讃 - 谷崎潤一郎
暗いのがいい!という主張で有名なエッセイ。しかしよく考えると欧州のほうが暗いはず。目の暗さ耐性が違うので。陰翳礼讃以外のエッセイがおもしろかった。

 

⭐️⭐️お言葉ですが4 - 高島俊夫
敬愛する高島先生のエッセイ集。

 

絶望名人カフカの人生論 - カフカ
カフカの書簡から抜粋した「名言」を並べた本。「名言」に添えられたコメントが説教臭くてダメ。つまらん。

 

⭐️⭐️中世を旅する人びと - 阿部謹也
欧州の中世社会がどのような仕組み、文化だったかを概観する本。読みやすくておもしろい。非常に治安が悪く、他人を信用しない疑心暗鬼の世界だった。

 

⭐️⭐️お言葉ですが1 - 高島俊夫
敬愛する高島先生のエッセイ集。

 

生きづらい明治社会 - 松澤裕作
明治時代、戦前の貧困層問題についての本。現代の問題に無理やりつなげて批判しようとする魂胆がみえるダメな本。

 

⭐️⭐️お言葉ですが2 - 高島俊夫
敬愛する高島先生のエッセイ集。

 

味つけはせんでええんです - 土井善晴
土井先生の哲学?が語られたエッセイ集。ちょっと散らかっていて読みにくい。内容も背伸びをしていて、抽象的に語ろうとして失敗している感じがする。

 

すばらしい暗闇世界 - 椎名誠
ナショジオ原稿集めた本。世界中を探検してる人のエッセイで、文章が上手なのでおもしろい。内容もサービスもよい。

 

⭐️観光客の哲学 - 東浩紀
ポストモダン哲学は結局社会を変えられてないよね、という問題意識から、現代社会の問題を捉え直そうとする試み。解決するためのキーワードが「観光客」らしいが説得的ではなかった。続きの「訂正可能性の哲学」につづく。

 

中国共産党 世界最強の組織 - 西村晋
日本人の中共理解はなっとらん、とお叱りをしてくる本。共産党の中央じゃなくて末端組織に焦点を当てて解説している。

 

⭐️⭐️食事のせいで、死なないために - マイケル・グレガー, ジーン・ストーン
栄養学の本。豆食え野菜食え果物食え。豆は実践してみたら著効した。食べろと言われているものの半分は抗酸化物質である。

 

野ネズミとドングリ - 島田卓哉
ネズミがドングリ食べたら死ぬのはなんで?という問いを調べる本。タンニンへの馴化が答え。ネズミが好きなので買ったが、あまりおもしろくはなかった。

 

哲学の三つの伝統 - 野田又夫
ギリシア、インド、中国に共通する哲学は何か、を問う。「世界はどうなっているのか」「善く生きるにはどうしたらいいか」がコア。この問いを語る形式が文化圏によって違って、欧州は世界の謎について厳密に問うたから科学を生みだせた。ちょいむず本。

 

⭐️⭐️三流シェフ - 三國清三
三國シェフの自伝。貧しい漁師の生まれなのに持ち前のセンスと突破力で世界的な料理人になっていく物語だった。フランス人になれない、と悟って日本に帰るくだりがおもしろい。

 

ベストは『徒然草』、『福翁自伝』、『唯脳論』、『芸術のパトロンたち』、『考える練習』。どの本も文章が上手で中身が詰まっていた。

前に「いい本はサービス(文章の上手さ)と内容の両方が備わったものだ」と書いたことがある。今でもそう思う。しかしそういう本を発掘するのが大変なのである。そこは当時、わかっていなかった。

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